日本近現代史と戦争を研究する

歴史学の観点から日本近現代史と戦争について記します。

軍票

台湾戦線と正貨支出

前回のエントリでは、明27.6以降の準備正貨減少についてみた。正貨減少は、財務当局に危機意識を生じさせた。 明27.11.15、日銀総裁は蔵相宛て、外征の進展に伴う戦線の拡大は、多くの正貨支出を伴うとして、正貨の節減を図るため、「軍事手形」の使用を蔵相…

明治二十七八年戦役と正貨準備

会計学者の佐野善作は、兌換券発行を正貨準備額と同額に止めるなら、兌換券発行の効用は大きく縮減する。よって兌換券は正貨準備額より遙かに巨額の発行がなされると述べる。 兌換券の主なる効用は第二節に述へしか如く正貨の用を省き信用を促進し弾力性に富…

後藤丙午「大東亜共栄圏の経済について」昭17.8

■後藤丙午「大東亜共栄圏の経済について」『傷痍軍人読本』第26輯、昭17.8 著者は同盟通信社員で、新潟県村上町で開催された 軍人援護教育担当教職員地方別講習会における講演をおこしたもの。 日本と各占領地域の間乃至は占領地域相互間の送金は認められて…

G・シユタイン「円と剣」1938.12

■G・シユタイン「円と剣」1938.12(東亜研究所による翻訳印刷) 日本本国、その植民地たる朝鮮と台湾、関東州を含む日本の従属国満洲によつて構成されてゐる円ブロツクは、はつきりしない仕方で北支へ、更に一層はつきりしない仕方で中支占拠地域へ、更に極…

軍票の栞

■支那派遣軍経理部『軍票の栞』昭15.2.11 聞き手と受け手の対話形式をとり、平易な文章で「宣伝」されている。 「法幣はよく敵性通貨だと言はれるがどう言ふ意味か?」 法幣の発行及統制は敵方たる蒋政権に掌握されて居つて蒋政権の抗戦力は総て法幣によつて…

軍票史研究の課題(1987年)

■小林英夫「軍票史研究の現状と課題」『駒沢大学経済学論集』19-1・2、1987.10 1987年時点で、小林英夫氏は軍票史研究の進むべき方向性について、次のように述べた。 われわれがめざす基本的研究方向は、桑野仁に始まり原朗、小林英夫、柴田善雅らが深めた内…

小林英夫『日本軍政下のアジア』―「大東亜共栄圏」と軍票― 第四章

第四章は、「戦後処理をめぐって」です。 1945年9月16日、日本政府は、軍票の流通効力を否定します。 本章第2節では、各地の軍票処理過程がまとめられています。 【華中】 45年9月、法幣1対儲備券200の交換比率を発表。 翌46年3月末までに儲備券回収が実施さ…

小林英夫『日本軍政下のアジア』―「大東亜共栄圏」と軍票― 第三章

第三章は、「『大東亜共栄圏』の実像」。 ここでも、軍票に関係する第五節以下をまとめます。 ●華中・香港ポイントとなるのは、1943年頃。 42年3月、興亜院会議は、華中に対する通貨政策を転換させ、 儲備券による統一を企図します。 華中の主要通貨であった…

小林英夫『日本軍政下のアジア』―「大東亜共栄圏」と軍票― 第二章

第二章は、「南方軍政はどのようなものだったか」というタイトルですが、 ここでは、軍票に関する部分を中心にみていきましょう。 日本は、1941年11月1日、「南方外貨標示軍用手票取扱手続」を策定し、 軍票印刷の準備をすでにはじめてました。 そして開戦と…

小林英夫『日本軍政下のアジア』―「大東亜共栄圏」と軍票― 第一章

第一章は、「中国戦線の物資争奪戦」についてです。 日本が中国における経済支配のためにとった政策は、次の通りです。 まず武力制圧したあと、行政機構と徴税機構を整備し、地主たちを組織して土地調査事業をおこなう。その一方、「敵産〔接収した相手側の…

小林英夫『日本軍政下のアジア』―「大東亜共栄圏」と軍票― 序章

日本軍政下のアジア―「大東亜共栄圏」と軍票 (岩波新書)作者: 小林英夫出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1993/11/22メディア: 新書購入: 1人 クリック: 10回この商品を含むブログ (3件) を見る 今回は、序章についてみていきましょう。 本書の課題は、次の…

軍票は回収すべきか その2

前回は、 南方開発金庫調査課『軍票の回収に就いて』(昭17.11)における 軍票回収論および回収不要論の考察についてみてきました。 今回は、その続きの部分である、 「大東亜戦争軍票回収の是非」についてみていきましょう。 前回もご紹介したように、本書…

軍票は回収すべきか その1

すでに引用したことがある、 南方開発金庫調査課『軍票の回収に就いて』(昭17.11)では、 軍票回収論および回収不要論について分析し、回収不要論をとることを主張しています。 以下、それについてみていきましょう。(なお同書の表紙には「金調第十三号」…

南方開発金庫とは

1941年末のアジア・太平洋戦争開戦以後、 東南アジアにおける通貨は、在来の通貨と軍票の2種類になり、 それ以外の通貨は使用を禁止されます。 在来の通貨は、発行機関が消滅したため、新規発行が行われなくなり、 また軍票は軍費支払の手段であって、企業…

軍票とは何か

軍票とは、軍隊が戦地や占領地で発行する通貨です。なぜ軍票を発行するのでしょうか。軍隊が占領地において物資を強制的に取り上げると、 住民の反発を招き、作戦に支障を来たすからです。 ●南方開発金庫調査課『軍票の回収に就いて』昭17.11、7頁 軍票は元…

「軍票インフレ」について

インフレに関して、軍票と物資は、言わばコインの表と裏の関係であって、 ふつう、軍票をコインの表とみるから、 「軍票インフレ」という表現になるのではないでしょうか。 今村忠男『軍票論』(1941年)は、次のように述べています。 軍票は一旦戦禍に見舞…