日本近現代史と戦争を研究する

歴史学の観点から日本近現代史と戦争について記します。

新聞雑誌にみる台湾征服戦争

先のエントリでは、時事新報において、「台湾戦争」、「恰も兵力を以て征服したるに異ならず」と認識されていたことをみた。以下の記事は、時期的により早いものであり、いまだ征服戦争の実績が上がっていない時期のものである。 ■「台湾を喰詰者の巣窟と為…

時事新報における台湾征服戦争認識

「戦死者の大祭典を挙行す可し」『時事新報』1895.11.4 九月二十九日までの報告に拠れば、日清役並に台湾戦争に於て我軍人の戦死せし者八百五十一人、傷死二百三十三人、病死五千三百八十五人、合計六千四百六十九人して、其後の死者も少なからざることなら…

台湾とフィリピンの比較―「日台戦争」と「米比戦争」

■岡本公一「比較植民地主義試論」『歴史学研究』867、2010.6 アジアに現れた植民地帝国として、日本とアメリカは共通点を有する。日本は1895年に台湾を、アメリカは1898年にフィリピンを版図に組み入れた。それぞれ日清戦争後、米西戦争後、条約により戦勝国…

円満な韓国併合像と併合反対運動

■森田芳夫『国史と朝鮮』(緑旗連盟、1939年)緑旗連盟は、1933年に京城で結成された社会教化団体である。森田は、京城帝大の朝鮮史学科出身であった。本書の肩書きには、「緑旗日本文化研究所員」とある。 本書は「今日の朝鮮問題講座」シリーズの第6巻に当…

『いのちの戦場―アルジェリア1959』

アルジェリア民族解放戦線(FLN)がゲリラ戦を続けるアルジェリアの最前線へ、フランス軍の若い理想主義的な士官が赴任するが…というシンプルなストーリー。説明的な台詞は少なく、示唆的で興味深いシーンが続く。 頼りない士官と経験豊富な下士官の関係…

第2次大戦中の米軍女性パイロット初表彰

AFPBB News 2010年03月11日「米議会、第2次大戦中の米軍女性パイロットを初表彰」 【3月11日 AFP】10日、第2次世界大戦終結から60年を経て、当時米空軍にパイロットとして従軍した女性たちが初めて、米議会で表彰された。 彼女たちが従軍した部隊の名称は、…

おぼえておきたい史料読解のコツ 3

今回の史料 川村参軍より達相成此旨相達 本営より 明10.9.5 ref:C09082101000 ポイント1 別紙 本文に続いて、別紙を添付するというのは、よくあるパターンです。 「別」の字が特徴的なので識別しやすいと思います。 ポイント2 合字 今回出てくるのは 「より…

2005年自民党新憲法草案策定過程と「国防の義務」

2005年自民党新憲法草案策定過程における「国防の義務」の議論に関して、新聞記事で追ってみた*1。 2003.12.17 16日、自民党憲法調査会は、総選挙後初の総会を開いた。05年に憲法草案策定を公約に掲げていたことを受けて、プロジェクトチームが要綱をまとめ…

おぼえておきたい史料読解のコツ 2

今回の史料人夫使用願の件 明27.8.5ref:C06031003000 第1、2画像を開いて下さい。 ポイント1 高級副官文書の発信元ととして陸軍大臣や次官とともによくでてきます。陸軍省副官は大臣官房に属し、大臣・次官の命を承けて公文書の浄写や注記、接受、発送の事務…

おぼえておきたい史料読解のコツ 1

はじめに アジア歴史資料センターの史料を各自参照することを前提としています。 (アジ歴の使い方については、以前書いたもの参照) 今回の史料米国駐在海軍大尉秋山真之同國北大西洋艦隊乗組ニ関シ諸般ノ便宜ヲ受ケタル謝辞其筋ヘ伝達之件 明32.9ref:B0709…

台湾戦線と正貨支出

前回のエントリでは、明27.6以降の準備正貨減少についてみた。正貨減少は、財務当局に危機意識を生じさせた。 明27.11.15、日銀総裁は蔵相宛て、外征の進展に伴う戦線の拡大は、多くの正貨支出を伴うとして、正貨の節減を図るため、「軍事手形」の使用を蔵相…

明治二十七八年戦役と正貨準備

会計学者の佐野善作は、兌換券発行を正貨準備額と同額に止めるなら、兌換券発行の効用は大きく縮減する。よって兌換券は正貨準備額より遙かに巨額の発行がなされると述べる。 兌換券の主なる効用は第二節に述へしか如く正貨の用を省き信用を促進し弾力性に富…

明治二十七八年戦役と臨時軍事費

明27法律第24号 臨時軍事費特別会計法 ・清および朝鮮との交渉事件に関する臨時軍事費は、一般会計と区別して処理する。 ・臨時軍事費の歳入歳出は、明27.6.1より事件終局までをもって会計年度とする。 明29法律第10号 臨時軍事費特別会計ニ関スル件 ・臨時…

日本陸軍便覧における糧食

関連:http://d.hatena.ne.jp/higeta/20100127/p1 日本陸軍便覧―米陸軍省テクニカル・マニュアル:1944作者: 岩堂憲人,熊谷直,斎木伸生,米陸軍省,菅原完出版社/メーカー: 光人社発売日: 1998/04メディア: 単行本 クリック: 27回この商品を含むブログ (4件) を…

ゴボウを食べる習慣は知られていなかったのか

関連:http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20100122/p1 アメリカでは日本人がゴボウを食べる習慣があることは知られていなかったのかという問題。 米軍はキスカ島において、撤退した日本の守備隊が残していった糧食を見つけたが、そのなかにはゴボウも含まれてい…

弁当給与ミッション

おとなり日記 http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20100122 昭14.4、関東軍からの帰還部隊が朝鮮北部を通過し、羅津の港から内地に向った。その際、朝鮮軍に与えられたミッションは、兵員を無事に羅津の港から送り出すことであった。朝鮮軍司令官は、第19師団司令…

入営当初初年兵内務教育計画表

■第五中隊『入営当初初年兵内務教育計画表』 どの第五中隊かは不明。 年代についても不明であるが、1/10(水)〜2/21(水)の計画を記している。 内容から大正期と思われるが、もしそうなら、曜日上、大正元年、6年、12年の何れかになる。 入営後、最初の4日…

松下芳男著作目録

タイトル 所収・出版社 発行 1. 軍隊教育学之神髄 兵事雑誌社 1920 2. 剣執る身にペン執りて : 兵営秘話 忠誠堂 1921 3. 資本主義と戦争 文化学会出版部 1925 4. 無産階級と国際戦 科学思想普及会 1925 5. 国防と軍備 : 我国資本主義政策の一批判 日本労働総…

西南戦争と白兵戦

関連 http://d.hatena.ne.jp/higeta/20090921/p1 http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20090918/p2 軍学校の受験に関して調べていると、主に中学生を対象としていたと思われる『学生』という受験雑誌に、陸軍大将・浅田信興が、西南戦争の回想を寄稿しているのをみ…

抜刀隊と史料

「百人斬り」との関連で西南戦争時の抜刀隊をとりあげるという Apemanさんの着想が興味深い*1。 『郵便報知新聞』1877年3月12日付社説「賊之兵略常在二接戦一」には、次のようにある。 腰間三尺ノ秋水ヲ提テ狂呼スル于今幾年ゾ其凝塊セル精神ハ初メテ今日ニ…

台湾議会設置請願運動

田中宏の論文を読んで、植民地台湾について持っていた、特に朝鮮と対比しての漠然としたイメージが崩れた。 田中によると、朝鮮における参政権要求運動では、基本的に本国議会への参加を求めたのに対し、台湾の運動においては、台湾議会の設置を要求しつづけ…

憲兵条例改正一覧

年月日 号 全 備考 明14.3.11 太政官達第11号 全54条 憲兵条例の制定 〃22.3.28 勅令第43号 全41条 全面改正*1 〃28.7.3 勅令第95号 全38条 全面改正 〃29.5.25 勅令第231号 全27条 全面改正 〃30.9.22 勅令第332号 全28条 全面改正 〃31.11.29 勅令第337号 …

ノモンハン事件責任者の処分

ノモンハン事件責任者(軍上層部)の処分に関して、 陸相・畑俊六は、日記に次のように記している(続・現代史資料4『畑俊六日誌』みすず書房、1983)。 昭14.9.8 ノモンハンに於ける第六軍の戦績は頗不良にして、23Dは支離滅裂となり軍旗二旒を焼却し、死…

戦争の定義

国際政治学者の奥村房夫*1は、代表的な戦史家の戦争の定義に関して、以下のものを挙げている。 (奥村房夫『「戦争」の論理』学陽書房、1986、16-17頁) (1) クラウゼヴィッツ(『戦争について』) 「戦争とは一種の強力行為であり、その旨とするところは相…

忘却の台湾

dj19さん引用のあわせて読みたいと あわせて読みたい。 ■松田京子「戦争報道の中の台湾―台湾領有戦争の語りと記憶をめぐって―」『南山大学日本文化学科論集』6、2006.3 領土の「合法的」割譲と、その地で徹底した暴力が行使されたこととは矛盾するものではな…

南京事件へのアプローチ

ココのコメント欄等をみて、思ったこと。 南京事件へのアプローチを分類してみる。 a. 歴史学者が自分の専門分野として研究する。b. 歴史学者が他の歴史学者の研究によって、事件を認識する。c. アマチュアが歴史学者の研究を踏まえつつ、自ら研究を進める。…

「日中戦争」という呼称

多くの研究者は、当時呼ばれていた「支那事変」ではなく、「日中戦争」と呼称する*1。「支那」に替わり「中国」という呼び名が一般的になったことが一つの原因であるが、では「事変」ではなく「戦争」と呼ぶのはなぜだろうか。 1960年代の代表的な研究である…

国家社会主義メモ

http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20090608/p1#cに関連して、補足&メモ。 ■木下好太郎『ヒットラーと獨逸ファシズム運動』内外社、1932 現代ドイツに於ける急激なる国家社会主義の擡頭に就いては、資本主義世界の示顕する現代の未曾有の不況と、その一環をなす…

南京事件否定論者が歴史学者による入門書・研究を読まなくていいと考える論理を忖度する

Apemanさんのところの最近の経緯、南京事件を否定してしまうのは入門知識すら身につけてない証 - 模型とキャラ弁の日記や過去に見聞した議論に基づくが、多分に推測を加味し、整合したものも含まれる。否定論者のなかでは、明確に意識されておらず、複数の論…

植民地台湾

<植民地台湾> 著者・編者 タイトル 所収・出版社 発行 1. 黄昭堂 台湾民主国の研究 東京大学出版会 1970 2. 山辺健太郎 解説 現代史資料21 台湾(一) 1971 3. 山辺健太郎 解説 現代史資料22 台湾(二) 1971 4. 大江志乃夫 植民地領有と軍部 歴史学研究46…