日本近現代史と戦争を研究する

歴史学の観点から日本近現代史と戦争について記します。

入営当初初年兵内務教育計画表

■第五中隊『入営当初初年兵内務教育計画表』


どの第五中隊かは不明。
年代についても不明であるが、1/10(水)〜2/21(水)の計画を記している。
内容から大正期と思われるが、もしそうなら、曜日上、大正元年、6年、12年の何れかになる。


入営後、最初の4日間は、特に覚えることがものすごい多い。
入営初日、1/10のメニューは以下のようになっている。

1.支給被服について
2.私物及び貴重品の処置
3.中隊幹部の紹介
4.食器の洗浄、煙草の吸い場所
5.入浴に関して
6.御真影奉拝に関して
7.営内一般の案内
8.厠の清潔法
9.起床より消灯まで
10.就寝の方法
11.命令会報に就いて趣旨説明


なかでも、入浴と厠については、事細かく、丁寧すぎるほど指示される。
入浴

イ.貴重品預入心得
ロ.入浴時限ノ厳守
ハ.営内靴ノ穿キ方及置キ方
ニ.入浴時ニ於ケル脱衣箱及靴箱ノ区分襦袢袴下ノ脱キ方
ホ.入浴場ニ於テ守ルヘキ規定
ヘ.桶ノ使用区分
ト.湯及水ノ使用上ノ注意
チ.石鹸ノ使用法及身体ノ洗ヒ方


イ.厠ノ使用区分
ロ.上厠時ノ心得
ハ.上厠中ノ作法
ニ.小便所ノ心得
ホ.塵紙ノ準備ト使用
ヘ.上厠後手ノ洗ヒ方及手洗水使用ノ注意
ト.便後ノ服装
チ.下痢患者用便所ノ使用


これは、全く使い方を知らない者を想定しており、実際に全く知らない者も入営するのであろう。


こうして、覚えるべきことを山のように詰め込まれる。
学校教育を受けていない者にとっては、付いていくのに精一杯であろう。


1/14のメニューには、「家庭ヘノ通信」があるが、そこでは、「不就学者ニ対スル教育ト習字ノ督励」がなされる。家族へ手紙を書けるよう、字を習い、次第に書けるようになっていったのであろう。


1/17には、「面会人ニ就テ」、教えられる。

イ.面会人ノ心得
ロ.面会時ノ服装言語
ハ.営内参観ヲ希望セル時ノ処置及案内法
ニ.面会人ヨリ金品ヲ受領セル時心得


面会人は、希望すれば営内参観が可能であったことがわかる。また軍当局が金品の受領に気を使っていたことがわかる。


1/19には、金銭関係の教育がなされる。

一、金ハ故郷、両親ノ汗ノ塊ナリ。イ.軍人ハ質素ヲ旨トセサルヘカラス。ロ.分ニ過キタル金銭ノ使用ハ往々罪悪ヲ構成ス。ハ.金銭ノ貸借ハ絶体ニ禁示スヘシ
二、故郷ヨリ送金セラレタル場合ノ処置
二、給料受領ニ関シ イ.印鑑ハ本人ノ代理後日ノ証拠タリ ロ.認印ハ貴重品トシテ取扱 ハ.受領時ノ心得 ニ.勤倹簿ニ記入法 ホ.給料使用計画ノ立案 ヘ.貯金ノ方法及手続
三、克己心ノ養成ハ先貯金ニ在リ イ.金銭使用ニ対スル一般ノ心得 ロ.所持金ノ方法ト盗難予防 ハ.無駄費ヒト貸借


給料使用計画を立てたとしても、計画倒れになるのが世の常であろう。小学生であれば、言いつけを守るかもしれないが、入営者にとって、いったん覚えた消費生活は止められない。多くの者が給料では足りなく、故郷から仕送りをもらっていた。軍は退営土産の風習についても虚礼廃止を呼びかけたが、なくなることはなかった。


1/26の「上官ノ家ニ出入スル時戸ノ開閉動作」、「上官在不在ノ場合ノ動作及心得」というのも細かい指示である。日本兵は想定外の出来事が起こったとき、弱いと言われるのも分かるような気がする。