日本近現代史と戦争を研究する

歴史学の観点から日本近現代史と戦争について記します。

下院、チェンバレン決議案修正の動き

下院に送られたチェンバレン決議案だが、ロジャー下院議員はその修正を積極的に働きかけた。条約により免除となる外国人をも国外退去させ、永久に市民権を与えないとする、より先鋭化した修正であった。国務省は、そこまでやるのは行き過ぎであり、条約の存在を尊重すべきと判断していたようである。日本の外務当局は、チェンバレン決議案に含まれる、帰化権がないことによる免除の条項を懸念し、その削除を国務省に働きかけた。


(佐藤大使より本野外相宛) 1917.9.14 JACAR:B07090170600

  • 「其主眼トセル処ハ一ケ年以上米国ニ在留シタル敵国人以外ノ外国人ニ徴兵令ヲ適用シ(一)条約ニ依■服役ノ義務ナキモノ(二)条約又ハ法令ニ依リ帰化権ヲ有セサルモノヲ除外スルニ在リ因テ十三日国務長官ニ面会シ前記(二)ノ点ニ付貴電第二四六号ノ趣旨ヲ申入レタル処同官ハ至極尤モノ次第ニ付早速相当ノ手段ヲ執リ斯カル差別的標準規定■削除スル様尽力スベキ旨約シタリ」


New York Times - Sep 20, 1917 CONGRESS TO PUSH ALIEN DRAFT BILL

  • 20日、マサチューセッツのロジャー下院議員によって、最新の修正案がランシング国務長官に提出される。国務省が条文を承認するや否や、下院議事規則委員会は、立法を正規化する特別規則を提出し、修正の無効化を防ぐであろう。
  • 議会における様々な外国人徴兵法案がひしめく状況は、今日まで混乱をもたらしてきた。国務省は議員に対して、市民権の欠如や条約によって登録はされても徴兵免除となる外国人を徴兵しようというのは、行き過ぎであろうと伝えた。
  • 外交委員会のロジャー議員が、条約的障害を取り除くために外交交渉を求める最初の立案を起草したとき、政権は賛成の意を示したことからすると、驚きである。
  • 同問題を扱うほかの決議案が提出された。ひとつは、チェンバレン決議案であり、もう一つは、下院移民委員会委員長、アラバマのバーネット下院議員によるものである。チェンバレン決議案は、現行の徴兵法を改め、外国人を入隊させるものである。一方、バーネット決議案は、単に、その地位を利用して徴兵免除を主張する外国人に対する罰則的施策を規定している。
  • ランシング国務長官、フランク・ポルク参事官らとの数日間の協議後、ロジャー議員は、ランシングに提出するチェンバレン決議案の修正案を起草した。チェンバレン決議案の主要部分がロジャー議員によって修正され、明日、国務省で検討されるが、次のように規定している。
  1. 米国在住の、敵国民ではなく市民となる意思を宣言していないすべての外国人は、アメリカ市民同様、選抜徴兵の対象となる。
  2. 敵国以外の外国人は、免除を主張したり、当該国との条約が強制的兵役賦課を禁止しているのなら、免除となるが、免除となった外国人は、永久にアメリカ市民となる権利が否定される。そして、本国へ帰国もしくは合衆国から退去しなければならない。
  • 迅速な立法化を望む下院議員は、ロジャー修正は、もともとのチェンバレン案より、労働状況を適正化すると考えている。
  • 大統領に外国人の国外退去の権限を与えた2の修正は、もし経済状況が望めば、外国人の在留も可能とする。すなわち、政府は外国人を在留させるか否かの選択権を有し、外国人自身に特権を渡さないこととなる。


Chicago Tribune- Sep 20, 1917  TEETH WILL BE PUT INTO ALIEN DRAFT MEASURE

  • ロジャーは、国務省はすっかり矛先を変え、決議案の通過だけではなく、効力を強めることまで望んでいる、と述べた。
  • 決議案の変更点は以下の通り。
  1. 選抜徴兵には例外はない。敵国人を除き合衆国在住のすべての住民が対象となる。
  2. 一年以下の在住者は免除となるというチェンバレン案の規定は、削除する。
  3. 中国人と日本人を免除するというチェンバレン案の規定は、削除する。
  4. 条約等により免除を主張する外国人は、永久にアメリカ市民権取得が禁止される。
  5. 合衆国内のドイツ人は、大統領の命令により、非軍事的義務の対象となる。
  6. 徴兵は、合衆国と条約を締結した国の国民に適用される。異議があれば外交交渉となる。
  • 規則委員会は、同案に関する特別規則を提出し、来週、下院を通過するであろう。そこには、上院は抜本的な修正を容認すること、該法は10月1日までに実施することが含まれている。


New York Times - Sep 21, 1917  ALIEN PROBLEM TO WILSON

  • ロジャーは、彼の提案を国務省参事官フランク・ポルクに提示したが、政権提案の前に大統領と協議することが賢明であった。
  • 21日、下院軍事委員会は、チェンバレン決議案に関する非公開審理を開くと思われる。もし大統領が、ロジャー提案の抜本的修正に賛成していないことがわかれば、同委員会はロジャー修正を承認しないであろう。


「第三六九号」佐藤大使より本野外相宛 1917.9.24 JACAR:B07090170600

  • 「二十二日国務省参事官ニ面会聞キ質シタルトコロ同修正案ハ目下国務省ニ於テ審議中ナルカ国務省トシテハ帰化権ニ関係アル点ヲ削除セシムルハ勿論総テ条約ニ違犯スルコトヲ避ケシメ条約上免役サルベキモノニ対シテハ何等制裁ヲ与フベカラサルコトニ改メシムル意向ナルカ同法案中他ニ決定ヲ要スル点モアリ目下大統領ノ手許ニテ審議中ニテ不日大統領ガ大体ノ方針ヲ示メサルヽヲ待チテ一括決定スル積リナリト述ヘタリ」