日本近現代史と戦争を研究する

歴史学の観点から日本近現代史と戦争について記します。

米政府、連合国に徴兵協約草案打診

外国人徴兵を外交交渉を通じて実現させようとする米政府は、連合国に相互的徴兵協約の草案を打診した。日本には9/26に届いている。草案は、在留民の徴兵のための本国帰還か在留国での徴兵を相互に協約するものであった。外務省から意見を求められた陸軍省は、在留者の本国帰還のための取締り強化は認めても、日本国民の外国での徴兵、外国人の日本での徴兵は賛成しなかった。日本国民は、徴兵されない米国在留者をどうみていたのだろうか。日本に帰ってこないのなら、アメリカで徴兵されてしまえとは考えないのだろうか。ノルウェイでは、在米ノルウェイ人は徴兵を忌避しているとみて、米国での徴兵を支持する声が強いようだ。


「第三九一号」佐藤大使より本野外相宛 1917.9.29 JACAR:B07090170600

  • 「二十六日国務省ヨリ協約草案ヲ送越シ当方ノ意見承知シ度旨申越セリ右草案ハ十一ヶ条ヨリ成リ其要旨ハ締約国ノ一方ハ他ノ一方ニ対シ自国臣民ニシテ対手国ニ在留スルモノヲ徴兵ノ為帰国セシメ度希望ヲ表示スルヲ前提トシ之ニ依リテ帰国セサルモノヲ追放シ帰国又ハ追放命令ニ応セサルモノニ対シ始メテ其在留国ノ徴兵令ヲ適用スベシト云フニアリ」


「在留民徴兵ニ関スル協約案送付ノ件」佐藤大使より本野外相宛 1917.9.28 JACAR:B07090170600

  • 「若シ日本政府ニ於テ米国在留ノ日本臣民ヲ兵役ニ徴集スルノ意思ヲ表示セサル限リ本協約ハ在留日本臣民ノ関スル限リ効力ヲ表ハサス従テ米国ノ兵役ニ徴集セラレ又ハ帰国追放等ノ制裁ヲ受クル事無之トノ事」
  • 協約案各条項要旨
  1. 兵役のため在留民の帰還を通告した場合、在留民を帰国させるか帰国できない理由を上申させる
  2. 帰還の迅速な実施
  3. 通達後帰還しない者の本国引渡し
  4. 3がなされない場合、在留国で徴兵
  5. 本国外交官による照会がある場合、兵役免除
  6. 本協約による外国への服役は国籍喪失の原因とならない
  7. 一方の国における服役または兵役免除は他の方の国における服役または兵役免除に該当するとみなす
  8. 脱営兵の本国引渡し
  9. 本協約の国籍は最後に取得した国籍による
  10. 本協約に抵触する条約中の条項の一時停止
  11. 本協約は現戦争の共同交戦国関係が終了するまで


Evening Tribune - Nov 27, 1917  Alien Slackers To Be Drafted

  • 数日で、ランシング国務長官は、各連合国との相互的兵役賦課に関する条約を立案するであろう。これらの条約は、外国人徴兵回避問題を解決するもので、来週の月曜日の議会召集後、議会に提出される。
  • 議会による該条約への支持は、在米の適齢フランス人*1に対する議決要求より事前にみてとれる。そのような者の徴兵を要求するいくつかの立案が、上院および下院でなされたが、国務省の提言があり、条約を遵守し、立法化は延期された。
  • 一方で非常に多くの在米外国人が、アメリカ市民となる意思の宣言を急いだ。多くの場合は、イギリス、フランス、イタリアの徴集官による取締りに際し、本国での兵役を避けるためであった。帰化意思の宣言は、自身に米軍への徴兵の義務を課すこととなる。しかし登録後、実際に徴兵されるのは四人に一人の見込みである。
  • 英米軍事条約は、兵役適格者を設定する法律の異同のために、多少の困難さはあるが、合衆国と他の協商国間のモデルとなるであろう。
  • アメリカ人は21〜31歳、イギリス人は18〜41歳という適齢の異同のため、公平な合意に到達するには多少の困難がある。これはおそらく両国の法律の相互承認によって調整され、条約の批准後、在米の18〜41歳の全イギリス人は、イギリス軍の徴兵対象となろう。


Boston Daily Globe - Dec 1, 1917  NORWAY UNOPPOSED TO US DRAFT PLAN

  • (クリスティアニア。11/12。AP通信。)在米の中立国外国人は米軍の徴兵対象となるべきであるとする米議会での提案に対する批判は、新聞にはほとんどみられない。逆に、米国はすべての適正な中立国民を徴集すべきで、米国政府がアメリカ市民を戦線に送る一方で、帰化外国人に特権の享受を許していることは賢明ではないと述べるのが、一般的である。
  • 米国へ移住した何千もの若いノルウェイ人の多くは、兵役を避けるためにノルウェイを離れ、大北西部地域に家を建てた。彼らの多くは、米国に何年も居住し、そこを故郷とする意思があるにも拘らず、市民権を確定させていない。
  • 彼らの徴兵が提案され、新聞のなかには、徴兵忌避のために故郷を離れたノルウェイ人が米軍に徴兵される可能性に満足の意を示したものもみられる。


「合衆国政府ノ提議ニ係ル日米徴兵協約案ニ付意見照会ノ件」本野外相より大島陸相宛、1917.11.12 JACAR:B07090170600

  • 「国務長官ハ九月二十六日附書柬ヲ以テ別紙協約案ヲ我佐藤大使ニ呈示シ右ニ関スル本邦側ノ意嚮至急承知シタキ旨照会シ越タル趣同大使ヨリ具申ノ次第有之候右ニ付国務省主任官ノ在米大使館員ニ語ル所ニ依レハ別紙協約案ハ米国政府ヨリ各連合国政府ニ対シ一律ニ提議セラレタルモノニシテ固ヨリ一箇ノ草案ニ過キサルカ故ニ当方ノ意見ハ腹蔵ナク開陳スル様致度趣ニ有之」


「合衆国政府ノ提議ニ係ル日米徴兵協約案ニ付意見照会ノ件回答」大島陸相より本野外相宛、1917.12.5 JACAR:B07090170600

  • 「右ハ日本国ト他ノ一方ノ国トノ間ニ於テ一方ノ国ノ臣民又ハ人民ヲ他ノ一方ノ国ノ兵役ニ服セシムルコトヲ除クノ外異存無之」
  • 理由
  1. 日本国民は「陛下ニ忠節ヲ尽スノ大儀」により、たとえ同盟国であっても他国の兵役に服すことは「建軍ノ本旨」に反する。
  2. 日本軍は日本国民によって編成するのであり、他国民を兵役に服させることは「建軍ノ本旨」に反する。
  3. 本国の召集に際し帰国しないような「忠誠ノ念」に乏しい、しかも他国民を国軍に加えるのは、「軍ノ建全ヲ害スル」。


「第四五二号電信案」本野外相より佐藤大使宛 1917.12.7 JACAR:B07090170600

  • 「本邦人ヲシテ外国ノ兵役ニ服セシメ又外国人ヲシテ帝国臣民同様我兵役ニ服セシメムコト共ニ主務省ニ於テ異存アリ即チ草案第四条乃至第七条ハ何レモ削除ヲ要スル次第ナル処米国政府ニ於テハ其他ノ条項ノミニテモ本協約案ヲ成立セシムル希望ナリヤ御問合セ結果来電アリタシ」

*1:フランス人に限定しているが、すでにみてきたように外国人一般と言っていいだろう。