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日本近現代史と戦争を研究する

歴史学の観点から日本近現代史と戦争について記します。

「満人」軍警による対日人暴行事件

植民地

「満人」は、ただ虐げられるばかりの存在ではなかった。「満人」軍警による対日人暴行事件が発生している。以下は、その一例である。「満人」軍警は武力を有しているから、ふつうの「満人」とは違い、一般の日本人に不平不満をぶつける力があり、気持ちでも負けないところがあった。

事件は、1943年1月10日に起った。被害者は、熱河蛍石株式会社自転車運転手の伊勢間松五郎、加害者は、熱河省隆化県馬虎営馬虎警察分駐所の許警士ほか6名である(以下は、吉林省檔案館, 廣西師範大學出版社編『日本関東憲兵隊報告集(第一輯)』7、廣西師範大學出版社、2005年、239-240頁による)。

被害者カ木炭ヲ自動車ニテ運搬シ来リタルヲ目撃セル加害者許警士ハ之カ一部ヲ無断ニテ持去ラントシタルヲ以テ伊勢間カ之ヲ制止セルモ肯セサルタメ立腹ノ余リ許警士ノ顔面二拳ノ一撃ヲ加ヘタリ

運搬していた木炭を許警士が勝手に持っていこうとしたので、伊勢間が許警士を殴った。伊勢間が警官相手に殴れるのも、相手が「満人」だからであろう。ともかく許警士が木炭を盗もうとしたことが事件の発端となった。

而シテ其場ハ何等問題ノ拡大スルコトナク解決セルモ右伊勢間ノ許警士殴打ヲ聞知セル同分駐所張警長ノ妻カ「警察官タルモノカ例ヘ相手カ日本人テアツテモ殴打セラレテ黙ツテ居テハ面子没有ナリ」云々ト洩シ許警士ヲ仄カシタルヲ以テ

そのまま解決すると思われた事件は、張警長の妻の登場で状況が変わる。彼女は「警官の面子まる潰れだ」と言った。ねちねち言ったのか、さらっと言ったのか。許警士は、警長の妻に格好いいところをみせようとしたのか、あるいはその言葉に憤慨したか。

許警士ハ直ニ事務所ニ伊勢間ヲ訪レタル処伊勢間ハ許警士ニ対シ「オ前ハ悪イコトヲシタノテアルカラ警務科ニ送致スル」云々ト洩シタルニ因リ両者間ニ論争ヲ生シタリ
然ルニ之ヲ窓外ヨリ目撃シアリタル加害者警士王横譯外四名ハ事務所ニ乱入シ事務所ニ居合セタル日系事務員二名ヲ室外ニ押出シ伊勢間ニ対シ応援ヲ不能ナラシメルト共ニ「打死没関係」ヲ叫ヒ棍棒ヲ以テ伊勢間ノ頭部及腰部ヲ殴打セルモ伊勢間ノ抵抗ナキト前記張警長ノ妻等ノ仲裁ニ依リ鎮静セリ

許警士は、仲間を連れて伊勢間の事務所に乗り込み、伊勢間を棍棒で殴打する。仲裁に入った警長の妻のほくそ笑む顔が、目に浮かびそうだ。