日本近現代史と戦争を研究する

歴史学の観点から日本近現代史と戦争について記します。

2008-01-01から1ヶ月間の記事一覧

軍票の栞

■支那派遣軍経理部『軍票の栞』昭15.2.11 聞き手と受け手の対話形式をとり、平易な文章で「宣伝」されている。 「法幣はよく敵性通貨だと言はれるがどう言ふ意味か?」 法幣の発行及統制は敵方たる蒋政権に掌握されて居つて蒋政権の抗戦力は総て法幣によつて…

民主化と知る権利

■北海道弘報課『道政だより』第42号、1951.9.20 道庁の仕事は、直接間接に皆さんが非常に苦心して納められている税金によつて、まかなわれているのです。皆さんの税金がどのように使われているか?皆さんの税金を使つて、どのように仕事が進められているか?…

軍票史研究の課題(1987年)

■小林英夫「軍票史研究の現状と課題」『駒沢大学経済学論集』19-1・2、1987.10 1987年時点で、小林英夫氏は軍票史研究の進むべき方向性について、次のように述べた。 われわれがめざす基本的研究方向は、桑野仁に始まり原朗、小林英夫、柴田善雅らが深めた内…

戦争学習と叙述と実践

戦争非体験第三世代にどう教えるか。 教師の言葉がどう伝わるかについて自覚的でなければならない。 ■今野日出晴「歴史教育の語られ方」『歴史評論』646、2004.2 私自身の小さな経験でいうなら、戦争学習において、生徒や学生たちは、戦死者や被爆者の数が実…

紙面に掲載される捕虜殺害

『静岡新報』1932年5月1日付には、戦争熱が高揚するなか、 満洲独立守備隊第六大隊第四中隊兵士の次のような知人宛ての便りが紹介されている。 (荒川章二『軍隊と地域』青木書店、2001年) この戦闘で支那兵を五十名ばかり捕虜とし武装解除して全部縛り上げ…

昭7.4.8 宇垣一成日記

■角田順校訂『宇垣一成日記』第2巻(みすず書房、1964) 欧米の論調は、満洲独立は仕方なしと諦めんとするの傾向、漸次濃厚に向ひつつあり。上海事件の発生は(中略)、満洲における仕事を隠蔽し、満洲丈けは日本の自由に任すも仕方なし、との空気の蘊醸には…

ジョン・H・アーノルド著・新広記訳『歴史』

歴史 ― HISTORY (〈1冊でわかる〉シリーズ ― Very Short Introductions日本版)作者: ジョン・H・アーノルド,新広記出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2003/06/06メディア: 単行本購入: 3人 クリック: 81回この商品を含むブログ (15件) を見る 著者は、フラン…

昭9.4.3 社説「日支関係の昨今」

■社説「日支関係の昨今」『北海タイムス』昭9.4.3 日支両国の関係は、爾来日を経るに従つて極めて遅々としてではあるが、次第に好転して来てゐるやに思はれる。こ■畢竟、日支両政府当局の平和工作的努力の反映であり、殊に南京政府当局が国際連盟及び米国と…

昭10.5 三坂隆精「天皇機関説に就て」

■本部評議員・三坂隆精「天皇機関説に就て」帝国在郷軍人会札幌支部『良民』229、1935.5 著者は、札幌連隊区から選出された評議員で、 1935年3月14〜16日開催、天皇機関説が議題となった在郷軍人会本部評議会に列席した。 天皇機関説を唱ふる輩は我が国体を…

<わたくし>の字引きと<おおやけ>の字引き

■今野日出晴「歴史教育の構図」『歴史学研究』755、2001.10 「構造主義的な学習論」をめぐる加藤公明―大町健論争について、 次のようにまとめられている。 ここでするどく問われたのは、教室の「説得性」か、学界の「共有財産」かということであった。教室に…

「捕虜を殺す兵士・殺さない兵士」

■今野日出晴「捕虜を殺す兵士・殺さない兵士」『歴史地理教育』663、2003.12 兵士になることの意味をどう授業するのか。 当時の兵士の捕虜の認識、「刺突訓練」の状況を確認した後、 次のように進める。 例えば、君たちの指揮官が「捕虜の一人も斬れない」で…

昭8.2.28 宮嶋清次郎「経済封鎖は予ての覚悟」

■宮嶋清次郎「経済封鎖は予ての覚悟」『北海タイムス』昭8.2.28 著者は、日清紡社長。 経済封鎖によって打撃を被るのは日本だけでなく、 相手国もであるとするのは同日の社説と同じだが、 宮嶋は、日本には対策があるという。 日本としては少しも困らない自…

昭8.2.28 社説「経済封鎖か」

■社説「経済封鎖か」『北海タイムス』昭8.2.28 「日支紛争諮問委員会」では、「東洋方面に於ける武器弾薬輸出に関する小委員会」の設置が提議され、 米ソ両国も招請されようとしていた。 社説子は、経済封鎖は覚悟の上であるとして、 封鎖されて困るのは日本…

史料講読を通じた日中戦争史学習

■井口和起「史料講読を通じた日中戦争史学習」歴史教育者協議会編『アジア太平洋戦争から何を学ぶか』青木書店、1993 1990・91年度、京都府立大学文学部史学科の「日本史史料講読」の授業。 テキストは、『南京事件・京都師団関係資料集』収録の兵士の日記と…

昭8.2.26 社説「四十二対一」

■社説「四十二対一」『北海タイムス』昭8.2.26 24日の連盟総会において、日本に対する勧告案が 「四十二対一」の絶対的多数で採択され、連盟との「絶縁」が決まった。 社説子は、未曾有の「国難」にあるとして、「国民の覚悟」を求める。 吾人が予て屡々論じ…

いまの学生・生徒と歴史教育

歴史教育と歴史研究をつなぐ (岩波ブックレット)作者: 山田朗出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2007/11/06メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 7回この商品を含むブログ (6件) を見る 座談会の内容をまとめたものである。 山田朗氏が司会を務め、ほか六名…

昭8.2.23 社説「連盟は自ら墓穴を掘るか」

■社説「連盟は自ら墓穴を掘るか」『北海タイムス』昭8.2.23 連盟脱退に廟議は一決した。 社説子は、脱退しても何も困ることがないと強気である。 わが国は、連盟を脱退したればとて、何も困ることはなからう。南洋の委任統治は、形式こそ連盟より委任を受け…

笠原ゼミと南京事件

■笠原十九司「『南京大虐殺』と歴史研究―ゼミ討議を通して考えたこと―」『歴史地理教育』376、1984.12 1983年度、宇都宮大学教育学部の東洋史ゼミにおいて 笠原氏は、鈴木明『「南京大虐殺」のまぼろし』、洞富雄『決定版・南京大虐殺』をテキストに用いた。…

大学歴史教育と研究の社会的意義

■瀧ヶ崎惠一「大学歴史教育論の初歩」『歴史学研究』609、1990.8 大学の授業内容を構成するためには、歴史研究をそのまま用いることも、また高校の授業実践をかりることもできず、歴史研究が社会に貢献する一案として構想することが求められるのである。 (2…

詭弁的相殺法と常識

詭弁論理学 (中公新書 (448))作者: 野崎昭弘出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 1976/01メディア: 新書購入: 30人 クリック: 190回この商品を含むブログ (148件) を見る 「……とも考えられる」とか「……かもしれない」という論法は、詭弁的相殺法になりやす…

屈服による研究と教育の一体化

■田中彰「一般教育における歴史教育の問題」『歴史学研究』370、1971.3 ひとたび歴史研究と歴史教育との分離を認めるや、もはや歴史教育のなかに、天皇制権力=イデオロギーの介入・滲透を防ぐ歯止めはなくなる。他方、そうした天皇制権力=イデオロギーへの…

歴史の現実と主観的願望

■安井俊夫「スパルタクスの反乱をめぐる歴史教育と歴史学(上)」『歴史学研究』564、1987.2 歴史学が歴史の現実から離れた主観的願望を排するのは当然だと思う。が、歴史教育もそれと全く同じでいいのだろうか。授業の中での子どもの発言、あとから書いたもの…

発話者のポジションへの着目

人が歴史とかかわる力―歴史教育を再考する作者: 安達一紀出版社/メーカー: 教育史料出版会発売日: 2000/11メディア: 単行本 クリック: 2回この商品を含むブログ (1件) を見る 著者は、歴史教育において、生徒が「歴史」の「消費者」であるという視点が重要で…

昭8.2.22 社説「熱河の討伐」

■社説「熱河の討伐」『北海タイムス』昭8.2.22 連盟脱退の時が迫る一方で、 熱河情勢が紙面を賑わせていた。 熱河は今日、学良の満洲撹■根拠地である。熱河より支那軍を一掃し、長城の線に於て二三の隘路口を押へれば、支那は最早満洲に対して、一指だも加へ…

歴史学と歴史教育は分けられるか

歴史からの反論―教科書批判者たちの正体作者: 尾上進勇,村上雅盈出版社/メーカー: 東京出版発売日: 1997/05メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 6回この商品を含むブログ (1件) を見る 俗っぽい表現が気になるところが多い本だが、 的確な言明も多いと思う…

昭8.2.19 社説「断乎脱退せよ」

■社説「断乎脱退せよ」『北海タイムス』昭8.2.19 総会が開かれる21日を目前に、連盟脱退が閣議決定されようとしているなか、 社説子も即時脱退を主張する。 わが国は連盟に対する一切を清算し、断固として脱退を敢行すべき時期が到達したのである。 わが国は…

昭8.2.18 社説「熱河の清掃」

■社説「熱河の清掃」『北海タイムス』昭8.2.18 熱河は「満洲国」の領土であるにもかかわらず、中国側が自国の領土のように「我物顔」を振舞っているとして、 批判する。 そも\/熱河は地理的歴史的に見て、所謂満洲の一部に属し、昨年三月建国の際発せられ…

昭8.2.16 社説「支那の盲動」

■社説「支那の盲動」『北海タイムス』昭8.2.16 熱河戦をきつかけに日本軍を平津の地にまで誘き寄せ、列強をして、実力干渉を行はしめ、第二の世界戦争を誘発して、日本に一泡吹かせやうとの策戦に傾きつゝあるものゝ如くである。身の程を知らぬ支那の如何に…

南京事件犠牲者総数の決定は立証目的ではなかった

笠原十九司『南京事件論争史』74-75頁において、 参考にされているのは、以下の記述である。 ■戸谷由麻「東京裁判における戦争犯罪訴追と判決」笠原十九司・吉田裕編『現代歴史学と南京事件』柏書房、2006 現代歴史学と南京事件作者: 笠原十九司,吉田裕出版…

その時々の南京事件否定説が必要

ふたたび、笠原十九司『南京事件論争史』より。 文部省の歴史教科書検定で南京事件の記述をさせまいとする姿勢は、現在にいたるも一貫しており、そのためには南京事件の事実は定説になっていないことを印象づけるために、その時々に否定説を書いた「歴史書」…