日本近現代史と戦争を研究する

歴史学の観点から日本近現代史と戦争について記します。

軍票の栞


支那派遣軍経理部『軍票の栞』昭15.2.11


聞き手と受け手の対話形式をとり、平易な文章で「宣伝」されている。


「法幣はよく敵性通貨だと言はれるがどう言ふ意味か?」

法幣の発行及統制は敵方たる蒋政権に掌握されて居つて蒋政権の抗戦力は総て法幣によつて賄はれてゐる点に法幣の敵性がある。言ひ換へれば法幣を強めることは蒋政権の抗戦力を強めると言ふ意味で敵性通貨なのだ。
(46頁)

一般支那民衆の実生活迄食ひ込んだこの法幣制度を壊滅することは確に困難だ。然し困難だからと言つて放つて置いたのでは敵の抗戦力破碎等は百年河清だよ。石に噛り付いても之を倒すことが絶対必要だ。此の点からでも新中央政権の法定通貨たる新通貨の一日も早き誕生が望ましいね。
(49頁)

軍票相場は何で決まるか?」

物の値段が需要と供給で決まると同様に軍票相場も軍票と法幣との需要供給によつて決まるのが原則だ。法幣売軍票買が多ければ軍票の価値は騰り反対に軍票売の法幣買が多ければ法幣の価値が騰るのだ。その需要と供給とを決する要素には実需もあれば思惑もある。実際に軍票で決済せねばならぬ為に軍票を買ふのが軍票の実需だこれに反して現在決済の要がないのに拘らず将来の軍票高値又は法幣安値を見越して軍票を買ふのが軍票の思惑だ。
(27頁)

軍票価値維持には何が有効か?

軍票を持つてると何時でも必要な物が買へる様にしてやることが一番軍票価値維持の為有効な方法だ。それには軍票に対して実際に物を売つて回収してやること軍票価値を安定乃至向上して何時でも物が買へると言ふ安心を軍票所持者に与へてやることが大事なんだ。此点で物資の軍票販売が大きな役割を果してゐる訳だ。
(34−35頁)

第二に鉄道・バス・汽船・電気・水道等の国策会社の諸料金を軍票で収納することだ。軍票でなければ汽車にも「バス」にも乗れないと言ふことは単なる軍票回収以外に大きな心理的影響がある。
(35頁)

第三に政府其の他の公租公課に軍票を取ることだね。
(同頁)

支那民衆をして軍票使用に協力させるにはどうしたらよいか?」

一番よいのは軍票の持つ価値の有難味を彼等に体験に体験させることだ。そこで軍票交換用物資の支那民衆に対する販売と言ふことが大きい意義を持つて来るのだ。軍票を持つてさへ居れば法幣では手に入らない物が容易に手に入る、例へば彼等の生活必需品たる食塩、マツチ、ローソク、綿布等が軍票なら容易に買へると言ふ仕組を作ることが大切だ。それから軍票の価値を法幣に対し常に有利の位置に置きその価値向上を図ると同時に軍票の価値を安定させることが大事だね。
(53頁)

法幣使用がやむを得ないケースとは?

例へば軍事上必要な鉄材とか通信機材とかだね。時期と輸送の関係で内地からの輸送がどうしても間に合はぬことがあるとすると、作戦上の都合でどうしても現地で買はなければならぬことがある。又我が占拠地外より棉とか毛皮とかの土産物資を購入する必要があるとき無論軍票買付は理想だけれ共現実には治安の関係上軍票では購入出来ぬとすれば已むなく法幣でも買付せねばならぬことがある。
(38頁)