日本近現代史と戦争を研究する

歴史学の観点から日本近現代史と戦争について記します。

後藤丙午「大東亜共栄圏の経済について」昭17.8


■後藤丙午「大東亜共栄圏の経済について」『傷痍軍人読本』第26輯、昭17.8


著者は同盟通信社員で、新潟県村上町で開催された
軍人援護教育担当教職員地方別講習会における講演をおこしたもの。

日本と各占領地域の間乃至は占領地域相互間の送金は認められて居りません。但し一部の軍人、軍属に例外を認める規定が最近出来ましたけれども、一般の人は如何に必要でも金を送ることも取ることも出来ないことになつて居ります。
(10頁)

南方開発金庫が出来ましても、今のやうに為替の取引を認めない、即ちお金をあつちにやつたり、こつちにやつたりすることが出来ないとしますと、共栄圏内の物資の交流も出来ないし、資源の開発も資金がなくては出来ないといふことになつて来るのであります。そこでこの金庫はかういつた開発資金を貸出す、或は物資交流の為に資金を貸出すのでありますが、それでは一体この資金は何処から出すか。南方開発金庫の資本金は一億円、払込は一千万円であります。僅か一千万円位の金で南方建設の大事業が出来る訳ではありませんので、これは勿論資本金はその侭として置きまして、南方開発金庫の必要とする金、即ち南方建設に必要なる金は臨時軍事費特別会計、詰り軍事費の方からこれを借入れてやる。
(10-11頁)

次に問題になるのは、かうやつて南方開発金庫が臨時軍事費特別会計から資金を借入れてどんどん貸付ける場合に現地にインフレーシヨンが起きるのではなからうかといふ疑問があります。大東亜共栄圏の建設を進める上に於てインフレーシヨンが起るといふことは非常に警戒すべきことでありますが、この点に付てどういう対策があるかといふと、一番大きなのは現地で何か債権を発行する、勧業債券みたいものを発行する、或は富籤のやうなものを発行する、それから現地で預金を集めるといふ風にして向ふで軍票を回収するといふことをやつて居りますが、併しこれだけでは到底足りませんので、本当に軍票の回収を行つてインフレーシヨンを防止する為に、日本から物を持つて行つてそれを売つて、その売つた金で軍票を回収する、即ち普通に言はれます裏付け物資を持つて行くことが必要なのであります。
(11頁)