日本近現代史と戦争を研究する

歴史学の観点から日本近現代史と戦争について記します。

植民地の価値


「朝鮮支配美化論」は、日本の「義侠的行為」を強調するところに特徴がある。
しかし、植民地を有したことの意味は、「義侠的」で説明できるものなのだろうか。


拓殖局第二部長・江木翼は、「植民地の価値」に関して、


1.植民地放資
2.内地向生産物
3.内地品の需要
4.移住の余地


の4点を挙げて論じている(江木翼「我植民地の価値(一)〜(三)」『東京日日新聞』1912.7.26〜28)。


以下、順に、朝鮮に関する記述をとりあげてみよう。


1.植民地放資

英国の植民地への放資額は、
「約百五十六億六千万円に達し其本国に於ける放資額の十分の一に当」る。


対して、日本は、「満洲二億三千五百万円朝鮮千七百万円台湾六千百万円樺太五六百万円内外にして総額三億三千二百万円に過ぎず」。


しかし、公表されていないものを含めると、実際はより巨額で、

現に朝鮮に於ては個人企業年々増加の趨勢を示し全羅道の如きは土地全面積の十分の一乃至三は内地人の所有に帰し居れり

という状態にある。

英国の植民地放資額に比し実に霄壌も唯ならずと雖も尚お内地の放資額に比し一割乃至二割に相当し割合に於ては英本国の資本と植民地の資本の割合に比し大差なきが如し


2.内地向生産物

四十四年度に於ける各植民地の内地輸入額を示せば台湾五千百万円朝鮮千五百八十万円樺太二百七十万円合計七千万円にして我が国の全輸入品価に対し一割三分に相当せり

生産品の種類に就て見るに何れも素成品重きを占め朝鮮に於ては米、豆、魚類、精牛、獣皮、鉄、金、棉花、肥料等にして台湾にては米、砂糖、茶、銅、樟脳類最も多く樺太にては鯡粕、昆布、鑵詰、枕木等にして以上は何れも内地に於て必要欠くべからざるものなり


3.内地品の需要

内地品の需要額は四十四年度の輸入額を見るに朝鮮四千百万円台湾三千万円樺太八百万円合計七千九百万円にして我総輸出額に対し約一割七分に相当せり

参考の為め千九百十年に於ける英国の植民地貿易の状況を見るに英国より植民地に輸出するものは全貿易額の三割四分にして植民地より英本国の輸入するもの二割五分に当る之を我国の一割七分及び一割三分に比し遥に大なりと雖も我植民地の年齢に顧みる時は尚お成績良好なりと云うべく内地の指導宜しきを得ば将来大に発達の余地ありと云うを得べし


4.移住の余地

朝鮮に於ては現に東洋拓殖会社に於て移民を奨励しつつあり今仮りに移住民一戸に付き二町歩を交附すとなし既耕地百八十万町歩の間に割込むとし之が為めに約十八万町歩を占むるを得べしとせば九万戸を収容するを得べく一戸五人とせば四十五万乃至五十万人を収容すべき計算となるなり然れども実際の状況に於ては優に百万人を容るるを得べしと信ず更に未墾地に就て見るに現に百二十万町歩は将来容易に開墾し得べきものにして既墾地同様二町歩を交附するものとせば六十万家族即ち三百万人を収容し得べく既墾地と併せて約四百万人を容るるを得べし

我国の人口は現に五千百万人内外にして既往十年間の増加率は約一割三分に当り欧洲諸国に於いて人口増加の割合最も大なる独逸和蘭に比し優るとも劣る所なし将来に於いても右と同率にて増加すとせば明治六十年には六千三百万となり七十年には七千百万人明治百年には一億万人となる訳なり

将来六、七百万人を収容するに足るべき植民地は内地人口の吐け場所として重要なる土地なりと云うべし