日本近現代史と戦争を研究する

歴史学の観点から日本近現代史と戦争について記します。

上院チェンバレン法案VS下院ヘイ法案

陸軍再編に関する議会の議論は上院案と下院案の対立に至った。両案は州兵の連邦所管化の点では一致していたが、常備兵力数については大きな懸隔があった。また上院案ではガリソン元長官案同様の連邦義勇兵創設が盛り込まれていた。なお、チェンバレン宿案の軍事訓練義務化は、このときは法案にまだ含まれていない。結局、両院協議会が開かれ、妥協案が模索されていく。


Milwaukee Journal - Mar 4, 1916 ARMY BILL NOW BEFORE SENATE

  • 4日、上院陸軍法案が、チェンバレン委員長によって提案された。同法案は、平時の常備軍を17万8000に増加すること、州兵を連邦管轄化し平時戦力21万7000とすること、ガリソン元陸軍長官案同様、連邦義勇兵部隊を創設すること、常備兵および州兵の現役期間短期化により十分な予備役制度を確立すること、工兵、軍医、技術者ほかすべての文民的補助者の予備を拡大すること、予備士官部隊を確立することを規定する。
  • 戦時の新軍は、歩兵64個連隊(7個師団を編制)、騎兵25個連隊(2個師団を編制。残りは歩兵師団に付属)、砲兵21個連隊、工兵7個連隊からなる。パナマ、ハワイ、フィリピンには、適切な守備隊が置かれる。本土には四個歩兵師団および二個騎兵師団が置かれる。
  • また下院議員選挙区ごとに義勇兵部隊が設立される。同部隊は、連邦の部隊となり、知事の管轄とはならない。


Evening Tribune - Mar 5, 1916 NEW BILL REPORTED IN THE SENATE

  • チェンバレン法案は以下のように常備軍の増加を規定する。歩兵は、現行31個連隊から64個連隊へ、約8万5000人。騎兵は、15個連隊から25個連隊へ、2万5000人。砲兵は、6個連隊から21個連隊へ、1万7500人。沿岸砲兵は、170個中隊から263個中隊へ、2万3600人。工兵は、2個大隊から7個連隊へ、5300人。衛生および兵站部隊は、10%に増加し、それぞれ7000人となる。信号部は8380人に、施設分遣隊は、2800人となる。
  • 常備軍の服務は7年で、現役4年、予備役3年となる。


New York Times March 5, 1916 178,000, ARMY BILL OFFERED IN SENATE

  • チェンバレン法案の規定では、予備士官候補部隊が、民間教育施設の陸軍士官が指導する軍事課程の下に置かれる。シニア部隊は大学、ジュニア部隊は、高校に置かれる。前者では週5時間、後者では週3時間が軍事訓練に当てられる。夏季キャンプが政府により開催される。卒業生が予備士官に任用される規則は、大統領権限に属する。任用は21歳以上で、10年間の服務を義務とする。最大数は、5万。
  • 委員会は、各方面からの要求に合うように、大統領に最大限の自由を委ねたが、同法案は、事実上、大陸軍計画である。委員会は、ガリソン長官の大陸軍計画が、各所で厳格すぎたと考えている。
  • 法案は州兵の連邦所管化を採用したが、州兵協会案に非常に多くの修正がなされている。入隊者は、常備軍の4分の1の給与を受けとり、戦時には合衆国に服務することを約する。入隊期間は6年で、現役3年、予備役3年である。
  • 両院協議会開催に到ったとき、州兵に関する規定は、下院案によって置き換えられるであろう。上院軍事委員会は、常備軍に重点を置いており、一方、下院は州兵連邦所管化に主眼を置いている。


Middletown News-Signal - Mar 6, 1916 HAY DEFENSE BILL BEFORE THE HOUSE

  • 6日、ヘイ法案が下院に報告された。ヘイ法案は、上院軍事委員会で実質的に承認されたチェンバレン法案の後を追っている。


New York Times March 17, 1916 ARMY INCREASE BILL BEFORE HOUSE TODAY

  • 両院の案で第一に重要なのは、州兵連邦所管化が最大限度まで達成された後の連邦義勇兵部隊の創設規定であると陸軍士官たちは断言する。下院案は、夏季キャンプ計画の拡大により、平時に大規模な市民軍創設を打ち出そうとする。上院案は、直接、大統領に各下院議員選挙区ごとに連隊を創設する広範な権限を付与する。
  • 両案の詳細は、続いて出されるであろう陸軍充当法案に引き継がれる。しかし両案とも、平時における市民軍養成の可能性を探る全くの試金石となっている。
  • 両案は、州兵連邦所管化の規定で若干相違する。下院案は州兵の最小を40万とし、一方上院案は25万とする。
  • 両案とも、徴募を奨励するための常備軍入隊期間の短期化、常備軍、州兵ともに十分な予備役を備えること、徴募の体系化、予備士官・州兵・士官候補生・連邦義勇兵を訓練する士官の追加を規定している。


Pittsburgh Press - Mar 19, 1916 Compromise Army Bill Is Prospect

  • 下院はおそらく来週、常備軍を14万人とするヘイ法案を承認するであろう。上院はおそらく、常備軍を25万4000とするチェンバレン法案を承認する。両院協議会が必要となり、妥協案が打ち出されるであろう。
  • ヘイは、大統領は州兵連邦所管化によって十分な訓練された予備部隊が得られると考えた。その結果、ガリソン前陸軍長官の大陸軍計画を破棄しようとしたと述べた。
  • しかしウィルソン大統領は、今夜明らかになったが、ヘイ法案への態度を言明していない。彼は提案をある程度、支持したが、むしろ上院のチェンバレン法案をより良いと思っていることを示唆している。大統領に近い者の言では、彼は両院協議会で満足いく案が出されることを望んでいるとされる。


Meriden Daily Journal - Mar 21, 1916 Hay Army Bill Approval Will End In Clash

  • 大統領は下院法案の基本方針を支持することがわかった。ヘイ法案は実現可能だが、チェンバレン法案はそうではないと確信していると言われている。
  • 参謀部が上院案を支持するのは、現行の給与制度の下では徴募が不可能であることがすぐ判明することとなり、それが強制的義務制度への道を開くこととなると信じているからであるとする情報がホワイトハウスに伝わっている。


Meriden Daily Journal - Mar 21, 1916 KAHN AMENDMENT TO HAY ARMY BILL PASSES THE HOUSE

  • 21日、ヘイ議員からの反対もなく、また議論なしに、大統領に随時、新法の下で4年で創設される6万の予備役を召集できる権限を付与するヘイ法案の修正が下院で承認された。


「第六〇号」珍田大使より石井外相宛、1916.3.22 JACAR:B03050817800 48/50

  • 「villa賊事件突発ヲ機トシテ大統領カ国防問題ノ迅速審議ヲ促シタルタメニヤ下院ハ三月十六日討議十時間ニ制限ノ議事規定ヲ可決三月十七日ヨリ大体大統領ノ賛認ヲ得タルモノナリト了解セラルル常備軍ヲ十四万トナス下院陸軍委員長Hay案ニ付キ全院委員会ノ討議開始セラレタルカ三月二十日先任共和党陸軍委員Kahnノ常備軍二十二万ノ修正動議ハ百八十三対百〇三ニテ又共和党議員Cragoノ右十四万以外短期兵六万ヲ置キ得ヘキ修正動議ハ百三十四対八十二ニテ何レモ否決サレタリ右ハ主トシテ共和党側ノ主張セル陸軍大拡張説ノ敗北ト見做サレ居レリ」


The Ingomar Index - Mar 23, 1916 BILL IN SENATE PROPOSES ARMY OF 800,000 MEN

  • 戦時戦力を80万人とする改訂チェンバレン法案が上院に報告された。これは提案されている法案の中で最大の戦力である。
  • ヘイは連邦予備役に反対し、州兵連邦所管化を企図する。チェンバレンは連邦予備役を主張し、州兵を厳格な連邦管轄下に置こうとする。チェンバレン法案では、常備兵の服役は6年である。しかし1年ごとに試験され、熟練者は残りの期間を予備役として市民生活に戻される。そして戦時のみ召集対象となる。


Telegraph-Herald - Mar 24, 1916 Hay Military Bill Passed In The House

  • 23日、現在10万の常備軍を14万とするヘイ法案が、402対2で下院を通過した。
  • 法案を起草したヘイ委員長は、“大統領自身の法案”と称している。しかし、ホワイトハウスは、法案の基本的計画には賛成したが、その詳細までは言明していないと説明している。政権は、上院の議決後、両院案に関する両院協議会が開かれ、大統領が完全に支持する法案が生まれることを期待している。
  • 法案は上院へ向かい、月曜日に審議が始まる。


「陸軍拡張『ヘー』案ニ関スル下院討議々事録送付ノ件」珍田大使より石井外相宛、1916.3.24 JACAR:B03050818600

  • 「御承知ノ通当国陸軍拡張案ニ就テハ種々ノ異論出テ行悩ミノ姿トナリ居タル処本月六日ニ至リ突然下院陸軍委員長『へー』ハ曽ツテ委員附託ニモナリタルコトナキ案ヲ同委員会同意ノ法案ナリトシテ下院ニ報告シ之ニ対シ下院共和党院内総理『マン』ヨリ少シク揶揄ヲ試ミタル外別ニ異議ヲ唱フル者モナク十六日ニ至リテ議事委員ヨリ同案討議規定ニ関スル決議案ヲ提出シ可決其翌十七日ヨリ昨二十三日マテ都合七日間討議ノ結果幾分ノ修正ヲ施シタルモ根本ノ常備軍十四万即チ現在法定数十万ニ僅カ四万ヲ増加スル点並ニ大多数ノ条項ハ原案ノ侭ニテ四〇二票対二票(内一票ハ社会党軍備拡張絶対反対者一票ハ共和党一層大拡張主張者)ニテ下院ヲ通過シ即日直チニ之ヲ上院ニ移送シタリ上院ニハ既報ノ通已ニ右『へー』案ヨリモ一層積極ナル『チエムバーレーン』案ノ報告アリ而シテ右修正ニヨリ上院『チエムバーレーン』案ニ大分接近セル形ニ改マリタルカ其内主ナル修正ト認メラルヽハ一ケ年在営者除隊ニ依リ補充乃至予備兵ノ数ヲ増シ従ツテ陸軍全体ノ上ヨリスレハ大ニ兵数ヲ増シ得ルノ余地ヲ作リタル修正及第八十二条ノ削除ナリトス上院ニ於ケル成行ヲ予卜スル者ノ多クハ結局上下両院協議委員会ヲ開キ『チエムバーレーン』案ト法案トノ折衷ニ了ルナラント観測シ居レリ」


The Day - Mar 29, 1916 Chamberlain Bill Is Before The Senate

  • 29日、下院陸軍法案に代わるチェンバレン陸軍再編法案が上院で審議中である。政権は法案の即時決着を要求するであろう。同案は、およそ17万5000人の常備軍を規定し、下院提案の4万増加である。また最大26万人の義勇兵、連邦管轄化の28万人の州兵を規定する。


Yellowstone News - Apr 8, 1916 Volunteer Army Bill Plan Saved In Senate

  • 義勇兵部隊条項の削除を意図する、チェンバレン法案の修正案が上院で36対34で否決された。当該条項は、下院議員選挙区によって26万1000人の完全に大統領管轄下に置かれ、平時に訓練がなされる連邦義勇兵部隊の創設を規定している。


Meriden Morning Record - Apr 15, 1916 Federal Nitrate Plant Is Favored

  • ワッズワース上院議員は、州兵に入隊した将兵に大統領と州知事両方の命に従う宣誓をするよう要求する修正を主張した。彼は、修正が州兵の連邦管轄化を戦時以外でも強化するものであると述べた。チェンバレン議員は、修正を受け入れるつもりであったが、南部出身議員からかなりの反対の声が上がった。採決は賛成23対反対22で定足数に満たず、翌日11時まで休会となった。


The Pittsburgh Press - Apr 19, 1916 Senate Passes Real Army Bill

  • 18日午後、上院は陸軍法案を可決した。同案は、常備軍を25万人へ増加、州兵から独立した連邦義勇軍創設、学校での軍事訓練開始、州兵の連邦管轄化を規定し、予備役を含め合計で100万の精鋭軍隊を生み出すものである。


The Chehalis Bee-Nugget - Apr 21, 1916 SENATE PASSES BILL FOR AN ARMY OF 250,000 MEN

  • 可決された法案は、下院のヘイ法案に代わるものである。両院協議会での相違の調整が提案されている。
  • 平時兵力を18万から25万への修正は、43対37で承認された。共和党21、民主党22の賛成である。15万への変更は、66対13で却下された。下院案はわずか14万であり、両院協議会では激しい論争が予想される。
  • ハードウィック議員の提案が、56対24で承認された。同議員修正は、100人以上、15歳以上の男子生徒を有するすべての学校、大学で学校側が志願し、生徒が予備役部隊の一部となることを認めたとき、陸軍省の指示で陸軍士官による軍事教練を行うことを規定する。訓練の志願は純粋に志願であるが、18歳以上のすべての学生は、訓練期間中、戦時には、大統領によって軍への召集対象となる。
  • 法案の主旨は以下のとおりである。平時兵力25万、連邦所管州兵28万、義勇予備兵26万1000、学校大学予備兵20万〜40万、硝酸肥料工場建設費1500万ドル、常備軍入隊者の職業訓練、常備軍の州兵隊創設。