日本近現代史と戦争を研究する

歴史学の観点から日本近現代史と戦争について記します。

ジョン・H・アーノルド著・新広記訳『歴史』


歴史 ― HISTORY (〈1冊でわかる〉シリーズ ― Very Short Introductions日本版)

歴史 ― HISTORY (〈1冊でわかる〉シリーズ ― Very Short Introductions日本版)


著者は、フランス中世史専攻。


歴史家の仕事とは何か。

何について語ることが可能であり、あるいは何について語らねばならないのか、歴史家は決定を求められる。つまり「歴史」(歴史家が過去について語る真実の物語)は、わたしたちの関心をとらえ、現代においてふたたび語ろうと決めたことだけからできているのだ。そして後の章でみるように、歴史家が真実の物語を選び出す際の理由づけは時代によって変化する。
(12−13頁)

わたしたちは過去をそのままのかたちで提示するだけではなく、解釈する必要があるのだ。物語のコンテクストを見つけだす作業は、「何が起こったか」を述べるだけではなく、それが何を意味するかを述べようとする試みでもある。
(13頁)

(引用者注―作家の仕事と比べると)歴史が無味乾燥で想像力に欠ける作業のように思われるかもしれない。しかし本書を通じて、歴史が史料を取り扱い、それを提示し、説明を行なうにあたって想像力も用いる作業であることが分かってもらえることだろう。すべての歴史家にとって重要なことは、実際に何が起こったかであり、そしてそれが何を意味するのかということである。いつなんどき幻想であることが明らかになるかもしれないある種の「真実」をつかもうとする不確かな試み、そこに歴史の魅力があるのだ。
(19頁)

こうした疑念(引用者注―歴史家が過ちを犯すかもしれないこと)は「歴史」が存在するためには不可欠である。過去が空白や解決すべき問題をもたないのなら、それらをひとつにまとめあげる歴史家の仕事など存在しないのだから。そして史料がつねに事実だけをありのままに率直に語りかけてくれるのだとすれば、歴史家の仕事がなくなるというばかりでなく、わたしたちは互いに議論することすらできなくなるだろう。歴史とは何にもましてひとつの議論なのだ。それは歴史家の間での議論であり、おそらくは過去と現在との間でなされる議論、実際に起こったこととこれから起こることとの間で行なわれる議論だと言えるだろう。議論することは重要である、それはものごとを変えてゆく可能性を生みだすのだから。
(19−20頁)

歴史について考えることで、わたしたちは過去との関係をより深く考えることができ、過去を語るために選び出した物語そのものだけでなく、その物語へたどり着いた道筋、それを語ることによってもたらされる影響を深く見つめることができる。過去が現在にふたたび割りこんでくるとき、それは強力な位置を占めるのだ。
(21頁)


「歴史」とは「議論」だ。