日本近現代史と戦争を研究する

歴史学の観点から日本近現代史と戦争について記します。

エコチェンバーとは

以前のエントリでみたように、
内田樹氏は、インターネットでの情報収集の問題点が「選択の反復」によって、
「臆断」を強化していくことにあることを指摘していました。


荻上チキ氏も、『ウェブ炎上』において次のようにより詳細に述べています。

ウェブ炎上―ネット群集の暴走と可能性 (ちくま新書)

ウェブ炎上―ネット群集の暴走と可能性 (ちくま新書)

インターネットを利用する各人は、意図的であれ非意図的であれ、常にある程度の情報のフィルタリング(情報のふるいわけ)を行っており、興味のある情報、知りたい情報などを選別しています。ウェブ上で人は、自分が知りたいと思う情報を収集します。あなたが検索をしているとき、調査に不要な情報を除外しながら、求めていた情報にたどり着こうとするでしょう。
(中略)
個人の先入観に基づいて他者を観察し、もともと持っていた考え方や偏見にとって都合のいい情報だけを集め、それにより自分の先入観を補強することを確証バイアスと呼び、そのようにして印象深い記憶のみが強調されることをセレクティブメモリ(取捨選択された記憶)と呼びます。
(中略)
情報収集の仕方や態度によっては、どんな人であれ確証バイアスやセレクティブメモリを強化し、偏見などを強めてしまう場合があります。それはウェブ上でも同様ですが、インターネットは高度に個人化されたメディアであるため、なおのこと自分にとって望ましい情報環境を作りやすい。このようなインターネットの特徴は、よく「デイリー・ミー」という言葉で例えられます。
(64−66)頁

「デイリー・ミー」とは、「数々の新聞、ラジオ、テレビ等、すべてのマスメディアの中から『わたし』に合わせて要約を作ってくれる、世界でたった一部だけの新聞」(「わたし」専用の新聞)です。
SNSやRSSなどの技術の発達がそれを可能にするのですね。


「デイリー・ミー」を読んでいる各ユーザーが似た者同士で同調意識を高めあうこと、
荻上氏はこれを「エコチェンバー」と呼んでいます。

エコチェンバーとは、音の反響効果を人工的に作り出す部屋や装置のことです。仮に小さなつぶやきであっても、あるいはとうてい人には聞き取れないような囁きであったとしても、自分に都合のよい言説を選択し、多くの人と同調しあうことでその声を大きくすることができるのです。仮にユーザーの立場が少数派でしかなくても、ウェブ上では必ずしも問題とはなりません。

(中略)紹介されている情報に、どのような反証が加えられていたとしても、エコチェンバーの中では自らに都合のよい情報が反響しあっており、とても批判の声は届かない。仮に都合の悪い情報があったとしても、紹介する順番や修飾語の並べ方、恣意的で部分的な引用や書体の改変などで、いかようにもイメージを変えられます。このように、エコチェンバーへの閉じこもりが、各ユーザーのセレクティブメモリを強化していくことになり、結果としてサイバーカスケードを構築してしまうというわけです。
(68−70)頁


サイバーカスケード」とは、この本のメインのテーマですが、
サイバースペースにおいて各人が集団として極端な行動に流れていく現象のことです。


このように、「デイリー・ミー」、「エコチェンバー」、「サイバーカスケード」とのように、
この本では、キーワードによって上手くまとめられて、論述されているのが特長です。


誰しもが、「エコチェンバー」のワナに陥ることを免れ得ないと思いますが、
それを回避したり、その効果を薄めるためにはどうしたらいいでしょうか。


ネット以外のものにアンテナを張るのは当然でしょうかね。


「エコチェンバー」に陥っているとき、内心、「閉じこもっているな、自分」と
薄々感じているのではないでしょうか。
あえて見ないようにしていたものを思い切って見てみるとか、
心の鎧をちょっと脱いでみるというのが大切かもしれませんね。