日本近現代史と戦争を研究する

歴史学の観点から日本近現代史と戦争について記します。

軍票史研究の課題(1987年)


■小林英夫「軍票史研究の現状と課題」『駒沢大学経済学論集』19-1・2、1987.10


1987年時点で、小林英夫氏は軍票史研究の進むべき方向性について、次のように述べた。

われわれがめざす基本的研究方向は、桑野仁に始まり原朗、小林英夫、柴田善雅らが深めた内容、即ち、日中戦争下の日中(国民党、共産党)三者の三つどもえの「通貨戦」の内実を物と金の両側面から究明すること、にあると思う。しかし、これをよくなし得るためにも、軍票研究で深めるべき課題は数多い。
なかでも、まず第一に深められるべき問題、「最大の空白」にして、最も早急に埋めるべき問題は、軍票の価格維持と拡大に最大の役割を果した軍配組合の歴史を調べることであろう。
(328-329頁)

幸い、軍配組合関係の帳簿類も一橋大学に残されていることから、これを使って資金面での探究がなされるならば、軍配組合の年間購入配給額を含む取引高や軍票維持の具体的状況も明らかにできるであろうと思う。これも今後の課題である。
軍配組合の歴史を調べる際に、いま一つ留意すべき点は、軍配組合が、具体的にどのようなルートで、どのような物資を流し、軍票の価値維持にどのようにかかわったのか、を明らかにすることであろう。
(331-332頁)

問題をあげればきりがないが、軍票流通状況やそれを支えた裏付物資供給機関としての軍配組合の活動、さらに日中戦争から太平洋戦争期にかけての同組合の機能の変化など、未着手の分野はひろく、軍配史研究は、まだ緒に着いたばかりの感が強く、今後探究すべき問題は数多い。
(333頁)


以上の総括を受ける形で、軍配組合に関する共同研究が進められ、
中村政則・高村直助・小林英夫編『戦時華中の物資動員と軍票』(多賀出版、1994年)が刊行される。